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緋綸子の雑記帳

私が誰かのブログを読んで楽しむように、見知らぬ誰かが私の記事を読んでくれたら。

まんが家がまんが家になるまでの話は面白い。『かくかくしかじか』3巻

待望の『かくかくしかじか』3巻が出たのでさっそく読みました。

読んでない方はネタばれ注意です。

 

 

  

3巻では、美大卒業後、紆余曲折を経てとうとう『ぶ~け』でまんが家デビューを果たす明子。卒業からデビューまで、時間的にはそんなに長いわけではないようなのですが(たぶん数か月くらい?)、その間に色々ありすぎです。

 

美大生活も終わりに近づき、まんが家への夢がいまになって再燃。新古書店でバイトし、漫画を読みまくる。一方で就職のあてはなく、宮崎県の高校の美術教師の試験にも落第。

→日高先生の紹介で高校の美術教師になれることに。無事美大卒業し、実家へ(彼氏とは遠距離恋愛に)。

→と思ったら、他の人がより強いコネで横入りし、美術教師の枠を奪われる。

→プータローとなり、日高先生の教室に通う。春休みの間、そこで美大受験の高校生を教えることに。

→プータローを許さない両親が電話会社に無理やり就職させる(日高先生の教室の手伝いも続ける)。

→あまりにも仕事が合わなくて、会社をやめたい(&彼氏に会いたい)一心で、3日間でマンガ作品を完成させ、投稿。そのマンガで受賞。その次に投稿した作品でデビュー。

 

というような、アップダウンの激しすぎる濃密な日々。こうやって後からマンガ化されたのを読むぶんには爆笑できますが、当時の本人には大変なことでしょう。まあ、就職するまでって、希望通りに行かずに思いもよらないところに就職することになったり、誰しも面白エピソードがあったりするもんですが、東村先生がマンガ化すると、余計に面白い。日高先生やご両親のキャラクターが相変わらず味があってよいです。明子本人も、絵画教室で、生徒の技術力をアップさせる能力にいきなり開眼するし、このへんも非常に面白かった。

 

そんなどたばたな日々を描きながら、抒情性も併せ持つこの作品。無職時代に日高先生の教室で、絵をひたすら描きながら、日高先生がさばいた魚を食べ、茶葉で沸かしたお茶を飲み、庭の枇杷の実をとったりと、出来合いのモノにあふれた都会生活に慣れた人間には経験できないような美しい日々を過ごしたことを、現在から振り返る作者。二度と戻れないからこそ、その日々は宝物になってしまった。今は無いものを思う気持ちはせつないけれど、そんな宝物のような思い出をもっている作者はうらやましい、と思いました。

 

そしてまんが家デビュー!どんなまんが家さんでも、デビューの瞬間というのは忘れがたいものだと思います。特に今回、東村先生さすがです!と思ったのは、

・水性ボールペンで描いちゃった

・背景もフリーハンドで描いちゃった

・なのに、受賞しちゃった

というところです。こういう、現在活躍するまんが家さんがデビュー当時ろくに道具の知識もなかったというのは、けっこうあるあるエピソードというか、それでも編集さんの目を引くってことは何か光るものを持ってるってことで、かっこいいな~と思います。

 

けど、日高先生にも絵の技術を認められている明子が、編集さんに「デッサンとかちゃんと練習するように」って言われたのにはびっくりでした。だって、デッサンって明子が誰よりもやってきたことで。ですが、目で見て描く絵と、何もないところから自分で構築する絵とは、ちがう。ということにアキコは初めて気づく。まんがと絵画と「両方は無理なんだ」と。この、両者が別物であることに気づくシーンは、何だか読んでて、胸が痛かった。もちろん、彼女は美大で絵を学んで基礎があったからこそ、たった3晩でマンガ作品を仕上げることができたんだと思います。けど、絵を描くこととマンガを描くことはまったく別のチャンネルであり、同じ感覚ですることはできない…そんな感じなんだろうと思います。同時にやろうとすれば、それは互いに邪魔になることすらある。

 

そして、意を決して明子は日高先生にまんが家デビューのことを話す。まんがのことについて反対はしない日高先生。けれどそれは生活費を稼ぐための手段で、あくまで「絵を描き続けろ」という。日高先生のなかでは、明子が絵を続ける以外の道は思いもよらないようで。明子の夢は昔からまんが家になることであること、そしてまんがと絵画を両立はできないということに気づいてしまったこと。そのことを伝えることすらできないくらい、日高先生の考えはぶれなかった。そんな日高先生が好きで、尊敬しているからこそ、日高先生の言いなりになってしまいそうで、だから日高先生から離れようと明子は決意した。そんなところで3巻は終わりました。

 

いや~、素晴らしかったです。笑えるエピソード満載なのですが、それだけじゃなく、過去のストーリーのなかに時折現在の作者の日常がはさまれることで、作者が過去の自分と周りにいた人々をいとおしむような、何ともいえない胸をしめつけられるような気持ちを、一緒に味わうことができる作品でもあります。まぁ、過去も現在も作者とその周りの人々は、おかしな人たちだらけなのですが。