緋綸子の雑記帳

私が誰かのブログを読んで楽しむように、見知らぬ誰かが私の記事を読んでくれたら。

5月の「短歌の目」感想 その1

tankanome.hateblo.jp

 

 

5月のうちに何とか書き上げたい。5月の「短歌の目」、皆様の作品の感想です。

自分がスター付けた中からピックアップしたのですが、思った以上にいっぱいあって、全部ひとつの記事にはとてもじゃないけど書ききらんぞ…ということで「その1」です。中途半端でごめんなさい。

で、いざ感想書こうと思ったんですが、短歌の感想って非常に難しいですね。はてなスターをつけた瞬間は「あ、これ何かいい。」と直感的に思っているだけで、深い読みとか解釈とかしてないですから。この、「何となくいいと思った」ことを言葉で改めて説明するのって、すごく難しいです。

いい歌の要素っていくつかあって、ひとつは、「せつない」「きゅんとした」みたいに共感できること、もうひとつは、「その発想はなかった」という視点の面白さ、あとは、言葉の美しさとか、リズム、調べの美しさとかそういったもの。作者によって、共感系が得意な方もいれば、奇想天外な発想が得意な方もいて、作風のちがいが面白いです。

ではでは、そういった視点も含めて、感想書いていきたいと思います。

  

ryo71724.hatenablog.com

2. 窓
参観日 我が子探して そわそわと 窓の外から 熱い視線を

 

教室の「窓」。それも廊下側の窓ですね。窓を隔てて、親が大勢の子供たちの中に自分の子を見るというのは、考えてみれば非日常なシチュエーションですね。「参観日」「探して」「そわそわ」「外」「視線」とサ行が連なっていて、よりそわそわ感が出てる気がします。

 

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2. 窓

窓辺にて君の帰りを待ちわびる私をいつも月が見ていた

 

言葉の連なりに少しも無理がなくて美しいです。月明かりに照らされる窓辺という全体に青白い絵のような光景が目に浮かびます。月だけが見ているというのは定番ですが、「いつも」「見ていた」と過去形になっていることで、「じゃあ、今は…?」と、切ないような不吉なような余韻が残ります。

 

tuchinoco.hatenablog.com

1.うぐいす

「鳴くために必要なのは」
「愛」
「外れ!」
「うぐいす職人、啼け!」
「ホーホケキョ!」

 

これは…状況はよくわかりませんが、すごくツボにはまりました。上で述べた、ユニークな発想系の方ですね。そしてリズムがよいのです。「愛」「外れ!」とか、啼け!」「ホーホケキョ!」とか、掛け合いがうまく57577にはまっている。何かこう、上司と部下とが、気をつけして向かい合って号令かけてるようなイメージ。うぐいす職人ってなんだろう…。

ちなみに、この歌で私が思い出したのは、マンガの『よつばと!』で風香ちゃんが友達に「栗拾いに必要なものはなんだ?」と聞かれて「…愛」と答えてグーでつっこまれてた場面なのですが、ご存じだったりしますか?

 

9.茜さす

茜さす日を浴びうれてゆく林檎 アイルランドApple Storeで

 

茜さすというお題が出たとき、ネットで検索したら、たしかに椎名林檎の曲名がひっかかりました。思わずそのまま使いたくなるくらい素敵なタイトルでしたよね。さすがは椎名林檎。さてこちらは、「熟れてゆく林檎」と「売れてゆく(椎名)林檎」を掛けているのでしょうか。そして、林檎つながりで、Apple Store。では、アイルランドは…?何か元ネタがあるのでしょうか?それとも特に理由はなく?もし理由がなかったとしても、この意外性から広がる世界が楽しいです。

 

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8. こい

恋来いと 鯉がたなびく空に乞う 透き通る青 我が春何処

 

お題がひらがなの「こい」ということで、「こい」の音を持つ単語を複数入れた歌が多かったですね。 特にこの歌は「恋来いと鯉が…乞う」という上の句のリズムが非常によいのと、内容もしっかり意味が通っているのが良いなと思いました。下の句の字面とフレーズも美しいです。こいのぼりたなびく五月の青空と、我が春(恋)を求める心がマッチしてて、何ともさわやかな歌です。

 

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1. うぐいす
羽伸ばす女子高生とうぐいすの初音交わる春の放課後

 

「女子高生」と「うぐいす」という異種のものの邂逅という題材がとても素敵です。「羽」が縁語となっているのですね。「春の放課後」というフレーズにも、その言葉だけでウキウキさせられます。「羽」「初音」「春」「放課後」とハ行始まりが多く、ふわりと軽やかな印象です。

 

aoitori.hatenablog.jp

9.茜さす
茜さす夕暮れ渡る君の耳はアウフタクトを聴きとる耳だ
 
 アウフタクト。音楽用語で、第1小節目が1拍目以外の音で始まること。昔、音楽のテストに出たのを覚えている…。合唱とかで、指揮者が振り始めた途中から歌いだすやつですよね。「アウフタクトを聴き取る耳」とは、夕暮れの静かな時間の中に、何かが始まる前のかすかな予兆のようなものを感じ取るということでしょうか。「茜さす」というお題で、「アウフタクト」という単語が出てくるのがすごいし、「アウフタクトを聴き取る耳」という概念が出てくるのがすごい。夕焼けの中を歩いているときの特別感、幸せと切なさが入り混じって、何かが起こりそうな感じが表れてると思います。必ずしも事件とか出来事が起こるのではなくて、自分の心の中に湧きおこってくるものかもしれない。
 
 
10.虹
君は見た? 人がつらさに耐えるとき 目をよぎる雨 揮発する虹

 

「目をよぎる雨 揮発する虹」とは、涙と、それによって視界がぼやけて虹のようなものが見えることを指すのでしょう。「よぎる」「揮発する」ということで、これは一瞬のもの、うっすら瞳に膜を張る程度の涙なのではないかと思います。大人になると、なかなか涙を流してぼろぼろと泣くことはありません。 それでも、人に誤解されたとき、自分のだめさに打ちひしがれたとき、ほんの一瞬、涙が浮かぶことがあります。すぐ消えてしまう、そんな涙。「君は見た?」という問いかけは、自分あるいは他人が傷ついたその一瞬を、通り過ぎずにちゃんと「見た」のか、ってことなのかな。大人になると、傷ついたことをなかったことにしてやり過ごすことが多いから。そんなことを思いました。

 

とりあえず、感想その1は以上です。歌によってコメントの長短があるのは、たぶんそのときのバイオリズム(?)によるものですので、あまり気にしないでください。一気にではなく、何回かに分けて書いたので、日によって長文になってしまうときがあったようです(特に最後のほう)。

こうして感想を書いてみると、良い短歌って、穂村弘も言ってた『共感(シンパシー)』と『驚異(ワンダー)』も重要な要素なんだけど、まずは「情景が思い浮かぶか」ってことが非常に重要なんだな、と思いました。共感系にしても、驚異系にしても、情景が思い浮かべば、短歌としてほぼ成功したといってもいいんじゃないかと思います。

私自身はその点まだまだなので、どうすれば情景が浮かぶ短歌が作れるようになるのか、他の方の作品を見ながら考えていきたいと思います。

とりあえず今回はこのへんで。