緋綸子の雑記帳

私が誰かのブログを読んで楽しむように、見知らぬ誰かが私の記事を読んでくれたら。

ゴールデンカムイ 杉元とアシリパさん

フジリュー版銀英伝目的でヤンジャンを買ってるうちにゴールデンカムイにはまってしまったのである。全然話の筋を知らないまま掲載されているのを読んでいたらアシリパさんが杉元にアイヌの生活について詳しく教えていて、杉元が「アシリパさんはよく知っているねぇ」と言っていた。アシリパさんは私が見た感じ12歳くらいの少女で、杉元は20代くらいの頑健そうな男である。二人で木の実を食べている様子、杉元が少女をさん付けで呼び親しみとともに敬意をはらっている様がとてもよいと思った。それに続く場面も、何やら深刻そうな事態に直面しているようだったが、二人の会話からは互いへの強い信頼と絆がうかがえた。

この二人、私絶対好きだわ…。

そう確信した。あと何か土方とか永倉の名前も出てきていて、え?新撰組の土方と永倉?実在した人も出てくるの??と気になった。ちなみに私は中学の頃からの新撰組ファンである。

その後本屋に行ったときゴールデンカムイの試し読みがあったため読んでみたらもう第1話からわくわくする面白さだった。杉元は日露戦争の帰還兵。戦死した親友の頼みで、その親友の妻の病を治療する大金を得るため北海道に来た。砂金とりをするもうまくいかず、そんなときある男から消えたアイヌの金塊の話を聞く。その金塊のありかの暗号は、網走監獄を脱走した囚人たちの体に刺青として記されているらしい…。

ヒグマに襲われそうになった杉元はアイヌの少女アシリパと出会い、二人でヒグマを倒す。アシリパの父はアイヌの金塊が消えた事件で殺された関係者だった。杉元は金塊のため、アシリパは父が殺された真相を知るため、二人は手を組み相棒となる。

ものすごく王道で骨太なストーリーでわくわくしませんか?あと、土方歳三はなんと生きてたという設定なんですよ。おじいちゃんだけどめちゃめちゃ渋くてかっこいいんですよ。あとは個性豊かで愉快な囚人たち(凶悪だけど)とか金塊を追う人々とかたくさん登場するんですが、それぞれ自分の目的や欲望のためたくましく生きる様はとても魅力的。

でもなんといっても杉元とアシリパさんなんですよ。母熊が死んで遺された子熊、手負いにされても死力を尽くして立ち向かってくる獲物の鹿。そんな命と正面から向き合って、杉元はアシリパからアイヌの人々の生命観を教えられる。杉元は心根の優しい男だけど、戦場では生き残るために多くの敵兵をその手で殺していて、戦争から帰った後も昔の自分に戻れずにいる。相手が悪人だったりこちらに危害をおよぼす存在とみれば殺すことはためらわないし、その代わり彼自身もいつどんな無残な死に方をしてもしかたがないと覚悟している。自ら望んだわけでもなく命のやりとりを平然とおこなえる人間に変わってしまい、故郷に居場所もなく親友の妻(杉元の幼馴染みでもある)を助けることを唯一の目的として北海道に来た杉元。アシリパと出会ってからの日々は彼にとってかけがえのない輝きなのかもしれない。失ってしまった本来の自分を取り戻せるわけではなくても。

アシリパが杉元に話すのは、単にアイヌの教えをそのままというだけではなく、アイヌの教えを彼女なりに咀嚼し解釈したもの。なのでけっこう自分に都合のいい解釈をしたりもして、そこを杉元につっこまれたりもする。

「考え方が現実的だな やっぱりアシリパさんってアイヌのなかでもちょっと変わってるんじゃないの?」
「アシリパという名は父がつけた。『新年』という意味だが『未来』とも解釈できる。わたしは新しい時代のアイヌの女なんだ」

このときの二人の会話、そしてその表情が私はとても好きで。二人はこうやって会話してお互いを知るのが楽しいんだなと思う。

金塊をめぐる争いはいま大きく状況が動いていて、この二人が最終的にどうなってしまうのかは予想がつかない。離れ離れになったり、最悪死別する可能性すらあるわけだけど、私は二人が一緒にいて狩りをしてチタタプしてヒンナヒンナ言いながら食べて笑っている未来をただただ願っている。