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緋綸子の雑記帳

私が誰かのブログを読んで楽しむように、見知らぬ誰かが私の記事を読んでくれたら。

「舌」を詠んだ短歌の紹介

はてな題詠「短歌の目」9月のお題にずっと取り組んでるんですが、なかなか自分のができないので気分転換にこの記事を書きます。

tankanome.hateblo.jp

今月のお題の一つに、「舌」というのがあるんですが、このお題で真っ先に思い出した短歌を紹介したいと思います。

 

天国の5秒手前にいる君をおくりとどけるアインシュタインの舌

 

作者は伴水という方。この歌は『短歌があるじゃないか。 一億人の短歌入門』(穂村 弘/東 直子/沢田康彦  角川ソフィア文庫)という本に載っています。この本は、編集者の沢田康彦さんが主催する「猫又」という同人短歌会の歌に対して、穂村さん、東さん、沢田さんが座談形式でコメントするというもの。「きらきら」「草」などのお題に対してさまざまな作品が集まるのですが、この歌のお題は「舌」ではなく、「人名を入れ込んで読む」というものでした。それでアインシュタイン。こういう自由度の高いお題も面白そうですよね。

さて、この歌、何を歌っているかわかりました?私は一読して理解したかというと、すぐ続きのコメント読んじゃったんで深く考えなかったんですよね。この歌だけでぴんときたかというと…うーん、どうでしょう。

答えは、ナニを歌っているのですね(笑)。まぁ答えといっても、作者がコメントしているわけではないので正解があるわけではないのですが、穂村さん、沢田さんも同人の方たちもそう読んでるので。「アインシュタインの」をのけるとわかりやすいですね。「天国の5秒手前にいる君をおくりとどける舌」で、天国=エクスタシーと考えれば。でもやはり、この歌では「アインシュタインの」というのが大事で、「アインシュタインの舌」とあることで、あのベロを出して写ったアインシュタインの有名な写真が映像として頭に浮かびます。そして、穂村さんたちのコメントそのままになりますが、セクシャルな場面にアインシュタインという知性の象徴が出てくるギャップ、アインシュタインという音自体も舌の動きのオノマトペのようでエロい…と。この人名がいろんな効果をもっているわけです。

短歌って、言葉の意味だけでなくそこから導かれるイメージや音そのものといった視覚的・聴覚的要素も最大限に利用して詠んだり味わったりするものなんだと、あらためてわかりました。

ちなみに歌人東直子さんはそういう意味とは思わなくて、穂村さんたちのコメントを聞いて「R指定の歌だったのか…」とコメントされてます。東さんはこの歌から、アインシュタイン相対性理論の延長線上に原爆が製造されたということを連想したそうです。作者がそれを意図したかどうかはわかりませんが、アインシュタインという人名からはそういう一面も連想されて、そこへ天国、舌といったものが組み合わさることである種の不謹慎さも感じられます。知性とエロチシズム、死、不謹慎…、ひとつの歌がいくつもの要素を内包していて、受け取り方によってこんなにイメージが膨らむのかと、読んでいて興奮しました。短歌の世界、作るのも、それを読むのもすごく奥が深いです。歌人ってホントにすごい。

なにより、このお三人方の会話が面白いです。「猫又」シリーズはこの本だけでなく、『短歌始めました。 百万人の短歌入門』、『ひとりの夜を短歌とあそぼう』もありますので、興味があったらぜひ読んでみてください。