緋綸子の雑記帳

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『斉木楠雄のψ難』23巻 明智編の感想

斉木楠雄のΨ難』アニメ2期を見始めて、あらためて斉Ψ面白いなーなどと思ってたら、いつのまにかジャンプ本誌の連載は最終回を迎えていた。明智くん初登場回は読んでいたのにその後は知らなかったり、ほかにも最終回に向けてのいろいろ重大な展開を見逃しているようなので、いっちょコミックスで読むかと思い立ち、16巻から25巻まで読んだ。そのなかで23巻の明智編がすごくよかったので感想を書いてみる。

 

あらすじ:転校生の明智は楠雄の小学生時代の同級生。小学生時代のあるできごとから、彼は楠雄が超能力をもっていると疑っている。彼の執拗な観察と誘導尋問により超能力の存在がほぼ証明されるにいたり追い詰められた楠雄は、発端となる過去の事件を改変し明智に超能力を知られていない状況を手に入れるため小学生時代にタイムリープを繰り返す。(ちなみに明智透真の小学生時代の苗字は明日視。両親が離婚して高校生時には明智姓になっている)

 

・セリフもモノローグもないけど感情がほのかに顔に出る小学生楠雄かわいい

まず小学生時代の楠雄がものすごくかわいい。いや、ベースはハイライトのないトーン一色の目にうつむき加減の無表情でこんな子供いたらちょっと心配になるけど、それでもかわいいのだ。丸い輪郭、やわらかそうなほっぺ、ギザギザ前髪の短髪とザ・スタンダードな小学一年生の男の子。

この頃の楠雄はセリフもモノローグもほとんどない。もともと楠雄はふきだしのセリフのほとんどないキャラではあるけど、モノローグは饒舌で何を考えているのか読者にはわかる。でも、この小学生楠雄はタイムリープした高校生楠雄から見た楠雄なのでモノローグもない。客体として見ると本当にしゃべらずずっと一人でいるキャラクターなんだな、とあらためて実感した。特に小学生時代の楠雄は本当にほとんど一人ぼっちで行動しているし。

そうすると考えていることはわからないかというと、そこは子供らしい表情の動きがあって小学生楠雄の感情は読み取れるのだ。そこがたまらなくいとおしい。あと表情だけでなく、考えていることが文章ではなく絵で表現されていて、そこもかわいい。

いじめっこのたかしが鉛筆回しや鉄棒でみんなから「すげぇ!こんなのできるのたかしくんしかいないよ!」って騒がれているとき、楠雄は、本当は自分はもっとすごいことができるのに…自分もみんなの前でやってみせてすごいと言われたい、というそぶりを見せる。でも、お母さんの言いつけを思い出して思いとどまる。単に言いつけだからというだけではなく、そんなことしたらどうなるかということもわかってるんだろうな。賢い子だから。

高校生になると達観していてむしろ目立たないことに全力注いでる楠雄も、小学生のときにはこんな子供らしい感情の動きがあったのだな~と微笑ましくも切なかった。だからこそ、いじめられた明日視のケガをこっそり治してそれに気づいた明日視が「すごいよ くすお君、ノーベル賞ものだよ」と言ったとき、まずいと思いながらもそれ以上にうれしかったんだな。そんなふうにほめて憧れの目で自分を見てくれた友人だから、秘密にしていた超能力をばらしてしまったのだろう。あの楠雄にもそんなことがあったなんて…。きっとそれほど明日視の言葉がうれしかったんだ。家では両親からいっぱいほめられても、友達にそういうふうに言われたことはなかったから…。そう思うと小学生楠雄を抱きしめたくなる。

小学生楠雄は全コマでかわいいのだけど特にかわいいのは、あそぼうワクワクドキドキらんど(テレビ番組)を思い浮かべて無表情に頬染めてるところ。好きなものに対する反応のしかたは今と変わらないよね。かわいい。

あとは、工作したロボ(空き箱つなげて作ってるの年相応でかわいい)を嬉しそうに持っていると明日視が悪気なく「そのゴミどうしたんですか」って聞いてきたのでむっとして睨むんだけど、明日視が素直に謝るとにっこり笑ってみせる楠雄。この一連の表情の変化かわいい。プライスレス。

 

楠子(女体化した高校生楠雄)と小学生楠雄の共演

今回、楠雄は女体化したうえでタイムリープしている。待望の楠子ちゃん再登場うれしい。わざわざ女体化したのは、タイムリープした先で同じ人間が同時に存在していることがその世界の住人に気づかれると強制的にその世界から排除されるから(気づかれなければOKなのが面白い)で、なるべく気づかれる可能性を低くするためらしい。われわれは楠子ちゃん大好きだけど、楠雄はみだりに女体化する趣味はないので、するときはちゃんと必然性があるんだよね。そのレア感がたまらなくいい。今回は小学生楠雄に近づかなければならないので用心するにこしたことはないのだ…。

などと言ってたら早々に見つかってしまう。楠子が素で「え?」ってびっくりしてる。レア。警戒して小学生楠雄が睨んでくるの怖い。大人以上に何するかわからない凄みがある。実際制御装置をつけている高校生楠雄より強いらしいし。あんなに子供らしい子供なのにほぼ人類最強の存在というのがもうヤバい。やむなく楠子はこの世界から去る(タイムリープからの強制排除?)のだけど、たぶんこのとき小学生楠雄は正体に気づいてるよね。未来の自分が女体化してやってきたということに。どんな気分なんだ。

失敗を踏まえて次のタイムリープでは300メートルくらい離れた上に透明化して小学校を観察するんだけど、それでも気配に気づいたのか睨んでくる小学生楠雄。もはや表情の迫力がバトル漫画のそれ。そりゃ楠子も「怖っわ」ってなる。距離離れているうえに透明化して気づかれるはずはないのだけど、「いや、気配くらいなら僕なら気づくかもしれない。なにしろ僕だからな」と真剣に考えこむ楠子ちゃん。

この漫画の面白いところってとにかく楠雄がチート過ぎるところと、女体化やらタイムリープやらパラレルやらでいろんな楠雄がでてくることなんだけど、それが存分に発揮されているので滾る。過去の自分にてこずる状況とかすごくたまらない。

 

・例によってちょっとハズしてくるSF設定

わたしそもそもタイムリープものをそんなに読んだり見たりしたことないのだけど、過去に少し介入しただけで世界が大きく変わってしまう(バタフライエフェクト)というのはまあわかる。でも楠雄がつっこんでるように世紀末世界に紙一重過ぎるw 今の世界どんだけ奇跡なんだ。そして、少しの介入であまりにも大きく世界が変わってしまうので、なるべく直接影響しないようにほとんど関係なさそうな間違い探しレベルの変化をランダムに加えるって、それもうほとんど博打じゃん。そして現代に戻るとやはり世紀末世界…の繰り返しなのほんと可笑しすぎる。楠雄は基本的にめちゃめちゃ賢いので、彼のとる行動は限りなく最適解に近いはずだし、ふざけてやってるわけじゃないんですよ。なんだけど、「もう失敗は許されない…今度こそ運命を変える!!」って大真面目に女体化楠雄が小学校の校門前にエロ本置いてくるってもう意味がわからない…。

「校門の前にエロ本…小学生にとっては大事件だ 誰が拾っても何かしら運命に影響を与えるはずだ!!」いやそうかもしれないけど…。それで君の望む未来が手に入ると思えるかい?

 

・思い出したくもない過去、一番変えたかった過去

なかなかヘビーだった。小学生時代、明日視は同学年男子たちのボス的存在であるたかしに目をつけられ彼とその取り巻きにいじめられている。弱いからいじめらるというよりは、たかしに追従せず怖れない明日視はある意味特別な存在で、それがたかしたちのプライドを刺激したのだろう。取り巻きの「よそ見すんなよ!!見ろ!!たかし君が「プロペラ」やってんだぞ!!はくしゅしろよ!!」という発言などからも、どうにかして明日視を屈服させたいことがわかる。楠雄も明日視もいじめっこも周りの子たちも小学1~2年生くらいの雰囲気がよく出ていて、読んでいて胸が痛くなった。会話とかがすごく、ありそうなんだよね。

楠雄は明日視と一緒にいることが多いけど、いじめに関しては、最初にこっそりケガを治してあげたとき以降は見て見ぬふりをしている。目立って自分の超能力がばれてはまずいから。けれどある日、ひと気のないところで明日視がたかしたちに暴力を振るわれているのを目撃して、楠雄は怒りで超能力を暴発させてしまう。このときの楠雄の表情が…。この作品にとうとう楠雄のこんな表情が出てきてしまった。そのあと、状況を把握したときの楠雄の冷静さ。彼が怒りを暴発させたという事実にも、その後すぐ冷静さを取り戻したという事実にも、すごく胸をしめつけられる。楠雄、あなたはこんな経験をしていたんだね…。

そしてこの話のラストには、もっと衝撃の事実が明かされる。おおもとの過去では、楠雄は明日視に自分の超能力のことを話してしまっていた(このことはこの感想文では冒頭に書いてしまったけど)。その後、たかしたちに暴力を振るわれた明日視は、楠雄の超能力のことを彼らにばらしてしまう。

「見せてやってよ くすお君!!くすお君なら出来るよね!?こいつらぶっとばしてよ!!いつまでぼくの事見て見ぬふりするの?」

…これは、つらい…。

往々にしていじめは、いじめっこといじめられっこの間だけでなくその周囲の関係をもこわしてしまう。友達だった者どうしが傷つけあい気まずくなり一緒にいられなくなったりする。いじめっこへの恨み以上のしこりとしてずっと残ってしまうこともあったりして本当にやっかい。

もちろんこの出来事の記憶は明日視たちから消去されているのだけど(あと今回のタイムリープでこの出来事自体なかったことになったらしい…(?)。このへんよくわからない)、この出来事があって楠雄は超能力者であることを人に決して明かさないことを胸に誓った。明日視は恨んでいるわけではなく

―追い詰められた人間が助けられる人間を知っていたら頼りたくなるのは当然だ 全ては明日視に話した僕のせいなのだ―

だからこそ、高校生になった明智にも超能力のことを知られるわけにはいかなかった。けれど、結局タイムリープ明智に超能力を疑われるきっかけとなった過去の出来事をなくすことはできず、現代で明智に証拠をつきつけられた楠雄は超能力を明かさざるをえなかった。

―また同じ事になるかもな―

―その時はその時だ―

もし超能力のことがバレても、その時はその時だと思えるようになったのは、高校で出会ったいつものメンバーがいるからなんだよな…。このへんをほんの数コマで表現してしまえるのすごい。目を閉じる楠雄の横顔アップが美しい。