緋綸子の雑記帳

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『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』を観た

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を観た。子供の頃何度も読んだ物語が美しい映像とキャスティングで再現されていて、初めから何でもない場面で泣いていた。ローリー役の人がイメージどおりすぎる!とか思いながら涙してた。

若草物語を現在パート、子供時代(若草物語)を過去パートとして回想しながら進む構成。ほぼ原作に忠実なんだけど、ラストはなかなかトリッキーな展開になっていた。

 

以下、ネタバレ(いきなりラストの展開の話から始まります)。

 

このトリッキーな二重構造(と私は解釈した)は、原作の展開と作者オルコットの人生を知らないと気づきにくいかも。

 

ジョーは子供時代をもとにした小説を書き、出版社に送る。姉妹のなかで唯一独身で生きていくつもりだった彼女だが、下宿先の友人であるベア先生と再会し、雨の中でロマンチックに結ばれ大団円。これは続若草物語の原作どおりの展開である。ただ原作と異なるのは、この場面の前後に出版社の編集者との交渉シーンが挿入されるところ。「物語の最後でヒロインは絶対結婚して終わらせないとだめだ」と譲らない編集者にジョーは「女性にとって結婚が幸せのすべてではない」と激しく反論するが、議論は平行線。このままでは出版してもらえそうにないため、内容を変更する要求を受け入れたうえで、著作権はジョーが所有すると主張した。そうして交渉成立し、Little womenが製本されていくのを感慨深げに見つめているジョー。…と観ている側は思うのであるが、この場面、この女性はジョーではなく作者のオルコット自身なのではないか。

先ほども述べたように、原作どおりにジョーはベア先生と雨の中でドラマチックに結ばれるのだが、どうもこの場面、クライマックスのわりに、やけにとんとん拍子で慌ただしい。そして、ジョーがあんなにも「結婚が幸せのすべてではない」と主張していたのに、いってるそばからドラマチックな結婚のラストを迎えるのはあまりにも違和感がある。「???」となりながら、男性編集者との口論を思い出し、はたと気づく。この結婚大団円の場面は、編集者の要求をのんだオルコットが書いた物語のなかのできごとで、編集者と交渉し出版をかちとった彼女自身はおそらく結婚していないのだ。

この映画、『若草物語』シリーズがオルコットの“半”自伝的作品であるということをうまく利用して、ジョーは結婚したけど、そのモデルである作者自身は結婚していないという事実をもとにアイデアを膨らませ、現代を生きる私たちへのメッセージとしたということなんだろうな。ここまでが物語内のジョーで、ここからは現実の作者ですよという区別をあえてしていないので、観ている方は一瞬混乱するんだけど。つまりシアーシャ・ローナンはジョーとオルコットの二役を演じてるということなんだよね。

このラスト、なるほどこれが現代に若草物語を映画化する意味なんだなと感心したのだけど、若草物語に詳しくない人にはなかなか伝わりづらい、わかりにくいラストでもあったと思う。ツイッターとかで「結局、ジョーも結婚したのか」とがっかりした感想も見かけたし(いや、この作品、結婚自体を否定しているものではないんだけど、編集者との口論と前後して結婚大団円みると、結局現実は編集者のいうとおりなのかという間違ったメッセージになりかねない)。あと、純粋に続若草物語の大団円ラストをじっくり味わいたかったという人には、ちょっと残念かもしれない。

 

以上、ラストシーンの感想でしたが、そのほかのこまごまとした感想を。

冒頭にも書いたけど、ローリーとブルック先生の俳優さんがイメージどおり過ぎて感動してしまった。なんかもうそれだけで泣けた。特にブルック先生なんてどう見てもまんまジョン・ブルックですよ。

子供の頃はそこまで気づかなかったけど、ローリーはやっぱ良いキャラクターしてるんですよね。茶目っ気があって賢くて思いやりがある。映画だとあまり強調されてないけど、四姉妹と交流するまではお祖父さまとの仲もぎくしゃくしていて孤独な青年だったのもポイント。

ローリーと姉妹、互いにときにお目付役みたいになっておせっかいやいて説教じみたこという仲なのがよいんだよね。誰かがはめをはずしすぎたときには、自分がお母様の代わりに忠告しなきゃってなる。 この5人のなかの基準にマーチ家の母の存在が常にある。

四姉妹とローリーがきょうだいのように仲良く無邪気に遊んでた子供時代がすごくいいんですよ。映画でもちゃんとそれがわかるように描かれていてよかった。ピクウィック・ペーパーズの会の話が出てきたのもうれしい。ピクウィック・クラブ、四姉妹がディケンズの小説の登場人物の紳士たちに扮して会合を開く遊びなんだけど、そこにローリーをメンバーに入れようとジョーが提案して、「女の子の会なのよ」と口ひげをたくわえた紳士の格好でエイミーが反対する場面とか笑ってしまった。観る前は続若草物語が中心の話だと思ってたので、ここまで若草物語のエピソードやってくれると思ってなくて、うれしかった。メグの虚栄の市、ジョーとエイミーの大喧嘩、ベスとローレンスおじいさまの友情、エイミーが学校で鞭の罰を受ける騒動…よく全部詰め込んだな。

 

あとはそうだな…、ローリーのジョーへの告白の場面でローリーの髪型がびっくりするくらい乱れるところすっっごくよかった。

 

そしてローリーとエイミーについて。この二人、150年たってもいまだに物議かもすの、すごいな(笑)。人によっていろいろ感想はあると思うけど、私の場合、それまでの下地はあったにせよ二人が結婚に至ったのはベスを失った悲しみの勢いだと思っていて、ベスへの愛情が強かったゆえだと思ってるのでわりと昔から肯定的。よい組み合わせだと思うし。映画で、二人が抱き合うところでエイミーに「ベスは天使だった」と言わせたのは、それを表している感じでとてもよかったです。

なんだろ、最初の最初に読んだときはたしかにびっくりしたんだけど、でも適当にくっつけた感はなくて、おぉ…そうきたか!って感じだった。 まだおそらく互いになんとも思ってない頃、エイミーはローリーの怠惰を、ローリーはエイミーがお金持ちと結婚しようとしていることを非難していて、そういう描写があるのもよいんだよね。初めはローリー、あのおチビちゃんがいつのまにか大人になって自分に説教するとはなぁくらいの反応で。異国の生活環境で何度か接触するなかで、互いを最良のパートナーとして発見し直したということなんだよね。恋心が燃え上がったのとはちょっとちがう。その書かれ方がよいと思ったんだ。

 

映画の感想のつもりが、最後はローリーとエイミーの話に…。わたし、この二人の話題好きでつい熱弁してしまう。一番大好きなキャラはベスちゃんだけど。

 

そんな感じで、映画よかったし、なにより原作はめちゃくちゃ面白いので、みなさまぜひ観てみて&読んでみてください。